妻に先立たれ今は一人で暮らす男・父親が主役の映画。
いや、離れて暮らす成人した子ども達も含めた家族が主役の映画。
とりあえず今は答えはいらない。
「みんな元気」
今は広くなってしまった家の主、フランク(ロバート・デ・ニーロ)は、
子供たちが久々に集まる週末を心待ちにしている。
最高級の肉を選び、それを焼くためのバーベキューコンロを600ドルで購入してしまうほど。
高級なワインはどれかと店員に尋ねると、
「ドイツのフランス産ワインもあれば、フランスからきたイタリアワンもある」という、
なんとも皮肉な対応。
それでもフランクはご機嫌だ。
嗚呼、嫌な予感がする。
いや、予感ではなく、確実だ。
案の定、息子や娘から、忙しいことを理由に週末は行けないという、キャンセルの連絡が相次ぐ。
直接もせつないが、留守電に吹き込まれたそれは、あまりにせつない。
だからそんなに張り切ったりしないで、って言ったのに(いや、言ってないが)。
フランクは声を荒げたりはせず、ちょっと眉毛を下げて、困った顔をするだけだ。
せつなすぎるので、テーブルにミルフィーユを置こう。
サクサクとしっとりの組み合わせが絶妙で、キュートなイチゴが乗ったミルフィーユ。
子どもたちが来られないなら、自分が行こう、サプライズで!と思いついたフランクは、
持病の薬を持ち、飛行機を避けて、長距離バスで彼らの元を一人ずつ訪ねていく。
ミルフィーユをフォークで食べようとして、お皿をカツンと言わせたりして
しまったことはないだろうか。変に力が入ってしまうのだ。
子どもたちは、父親のサプライズ訪問に困惑する。
家族3人、仕事も順調なはずの長女、音楽家の長男、アクターの次女、
そして、芸術家になった次男。
ミルフィーユは、一枚ずつ生地をはがして食べると、カスタードとのバランスが崩れる。
バラバラじゃだめなのに。
父親のとった行動と、子どもたちの真実、そして彼らが気づいた思いとは……。
ミルフィーユの正しい食べ方は、倒して横にし、ナイフとフォークで少しずつ
切り分けながらがいいのだそうだ。
小津安二郎の「東京物語」へのオマージュとして作られた
ジュゼッペ・トルナトーレ監督のイタリア映画「みんな元気」を、
カーク・ジョーンズがリメイクした今作。
その重なりも、ミルフィーユみたいだ。
(kuri)