日本人ならやはりこの監督の作品に触れないわけにはいくまい。
小津安二郎。
この「秋刀魚の味」は、小津監督の遺作だ。
「秋刀魚の味」だから、食べるのはサンマの塩焼だろうと想像した人には、
丁寧に「いいえ、違います」と申し上げよう。
父・平山周平は、妻を亡くし、年頃の娘・路子と次男の和男との3人暮らし。
長男の幸一はすでに所帯を持っている。
妻のように、母のように家族の面倒を見る路子に縁談の話が持ち上がる。
まだまだ現実味のない父と娘だったがやがて……。
丁寧に、と申し上げたのは、この作品が醸し出す品の良さ、
父を演じる笠智衆や、娘の岩下志麻が発する言葉の美しさを目の当たりにしたからなのだ。
だいたいファーストシーンで、事務員にかける言葉「すまんね」を聞いただけで
うっとりしてしまった。
上司が部下にかける言葉として、この4文字「すまんね」はとてもとても美しい。
そして、美しいといえば、若き日の岩下志麻だ。
おそらく2度ほど出てくる彼女の髪に手をやるシーンがなんとも美しい。
さらに、美しいといえば、若き日の佐田啓二だ。
顔立ちはもちろん、ゴルフのスイングまでもが美しい。
美しすぎて肩が凝る?などと思う方にも心配ご無用。
実は結構な下ネタもある(笑)。
ユーモアと呼ぶのかもしれないが、要は下ネタなのだ(笑)。
級友が集まって酒を酌み交わしながらの会話も、案外下世話だったりして。
それでも全体に流れる、きちんとした感じ。
日本は本来こういう美しさを持ち合わせているのだと、清々しい気持ちになる。
だからこの映画を見ながらいただくのは、やはり和食に違いない。
白飯とみそ汁、浅利の佃煮に香の物。
一口一口ゆっくりと咀嚼しながら、物語の最後を見届けよう。
ちなみに、昭和37年のこの作品で描かれる結婚適齢期は24,5歳。
それからざっと50年の月日が流れ、結婚適齢期などというものはもはやあるような、ないような。
しかしながら、家族の幸せを願う気持ちは、いつの世もなくなってはいない。
そんなことを再確認したくなるのが、小津安二郎の「秋刀魚の味」。
(Kuri)
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